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地球史を通じた海洋の持続的な存在とこれから

「地球は青かった」とは,人類で最初に地球を飛び出したユーリイ・ガガーリンの言葉ですが,なぜ青いかというと地球には海があるからに他なりません。では,他の星はどうかというと,地球のように表層に海がある惑星は今のところ見つかっていません(エウロパなど,氷の下に液体の海が存在する衛星はいくつか報告がありますが)。月や火星に探査機が着陸してあたりを見渡してみても,そこには海のようなものは見当たらず,延々と砂と石からなる荒涼とした砂漠が広がっているだけです。では,なぜ地球にのみ海が存在するかというと,それは地球が液体の水が存在する絶妙な条件を満たしているからです。地球では約40億年前に海ができて,それ以降ずっと存在してきましたが,それは地球表層で上記の条件をずっと満たしていたからです。そして,そこにはプレートテクトニクスが関わってきます。というのも,温室効果ガスの一つである二酸化炭素は,プレートによる沈み込みと火山活動による脱ガスによって,大気中での濃度がほぼ一定に保たれるしくみがあるからです。私たちは地球を特徴づけるプレートテクトニクスの始まりに関して,そしてプレートテクトニクスによってもたらされた海洋の持続的な存在,安定的な表層環境の維持メカニズムの解明に取り組んでいます。

地熱ルネサンスへ向けて

東北地方での地震による原子力発電所の問題から,地熱に取り組むべきではないだろうかと考え始めている。石油や天然ガスなどの化石燃料は約100年後には枯渇するとの予測から(原子力発電もウラン鉱石を燃料としているので化石燃料に含まれる),次世代の再生可能エネルギーの開発が進んでいる。そのうち,地熱エネルギーはポテンシャルが高く,また二酸化炭素の排出量からいってもクリーンエネルギーの代表格であるにもかかわらず,注目度はやや低い。これは,開発から実用化までに時間がかかる(リードタイムが長い)こと,また利用できる地域が現時点では温泉地帯などに限られるためである。しかし,近年は高温岩体発電にはじまる新地熱発電(EGS)に期待が高まっている。産総研によると,現在の地熱エネルギーの最大利用発電量は日本全体の消費電力の約1割に満たないが(現在利用しているのは約0.2%),高温岩体発電が可能となれば,最大資源量としては日本全体の年間発電量の約2倍はまかなえると試算されている(しかも再利用可能であり,資源はほぼ無尽蔵)。高温岩体発電では,地下にある熱源地帯に水を注入して水圧破壊を引き起こし,貯留層を作り,そこから熱水を回収しタービンにより発電する。私たちのグループでは,これまで地下深部での岩石の透水率や間隙率ならびに破壊実験を行っているが,それはとりもなおさず地熱エネルギーの発展に役に立つのではないだろうか。今後どのように地熱エネルギーの発展に貢献できるか分からないが,失敗を恐れず果敢に挑戦していきたい。

 
プレート境界地震と蛇紋岩の関連性

沈み込み帯でのプレート間地震の発生下限は,一般に温度に敏感で350-400℃の脆性塑性境界に一致すると考えられているが,東北日本の一部などではプレート境界面温度が150-250℃に相当する陸側のモホ面深度で地震発生帯が消滅する。プレート間地震の発生限界が低温領域でみられる原因としては,モホ面下のマントルウェッジが含水化し,蛇紋岩が形成している可能性が報告されている(Seno 2005)。我々は,このモデルを検証するために,東北日本のような冷たいプレートが沈み込む条件(1GPa, 200-300℃)で蛇紋岩の変形実験を行なった。その結果,蛇紋岩には脆性的な破壊はみられず延性的な流動により変形が支配されることを見出した。このことは,プレート境界に蛇紋岩が存在する場合には弾性的な歪みは蓄積されず,プレート間地震の発生を抑制する働きがあると推察される。琉球地方では,他の沈み込み帯地域に比べプレート間地震の頻度が著しく低いが,それはプレート境界に存在する蛇紋岩に由来するのかもしれない。

 
沈み込み帯での流体移動とその分布

沈み込み帯は火山活動や地震活動を起こす活動的な領域であるとともに、地球内部への唯一の水の供給源であることから、水が沈み込み帯での諸活動に影響を与えていることが考えられる。沈み込む海洋プレートは温度上昇に伴い脱水反応が進行し、水をマントルへ放出する。放出された水はマントルウェッジに達すると、かんらん岩と反応して蛇紋岩を形成することが期待され、そのような蛇紋岩の存在は地震波の低速度異常や高ポアソン比により確認されている(Kamiya and Kobayashi 2000; Brocher et al. 2003)。マントル中を通る流体は、一般的に浮力のため直上に移動すると考えられているが、蛇紋岩ではせん断変形による面構造が著しく発達しているため透水率に異方性が生じ、流体移動が面構造に制約されている可能性がある。私たちのグループでは実験室で岩石中の流体速度を測定し,蛇紋岩中では面構造に平行に流体が移動し易いことを明らかにした。これは流体が浮力のため真上に移動する従来のモデルと異なり,プレートの脱水反応によりマントルへ放出された水は蛇紋岩の面構造に制約され,プレート境界方向に選択的に移動するという新しいモデルを提案している。

 

沈み込んだ海洋地殻のレオロジー特性

マントル内部へ沈み込む海洋地殻物質は地球内部での化学不均質の最も重要な要因となっており、そのようなマントル内の不均質は中央海嶺玄武岩や海洋島玄武岩の同位体化学組成からも報告されている(Hirschmann and Stolper 1996; Hofmann 1997)。これまで海洋地殻物質の物性については高温高圧実験(静水圧)により相平衡図ならびに弾性的性質(密度、体積弾性率など)について多く研究されているが、流動を支配するレオロジー的性質はまだほとんど分かっていない。私たちは地下深部での海洋地殻物質を代表する鉱物であるざくろ石のレオロジー的性質を高温高圧変形試験機により調べている。これまでのところ、ざくろ石のレオロジー特性は水に非常に敏感であり、水のフガシティー(含水量)が高い場合はざくろ石がオリビンより柔らかくなることが分かった。このことは水に富んだ環境では海洋地殻物質は低い粘性率を持つため比較的容易に周りのマントル物質と混合するが、一方水に枯渇している場合は海洋地殻の強度は高くマントル内部で孤立した化学不均質として存在している可能性が高い。

 

地球内部での流動特性に関する研究

プレートテクトニクスに代表される地球のダイナミクスは鉱物物理のミクロな現象に基づいている。最近の地震波トモグラフィーの進歩により地球内部の構造が明らかになってきているが、それら内部構造の物理的解釈や地球上で起きる火山や地震などのダイナミクスを予測するには上記の鉱物物理のミクロな現象の理解が必要不可欠である。地球を構成する岩石は固体であるが、非常に長い時間スケールで高温高応力状態におかれると水飴のように流動(塑性変形)し、その結果として地球内部が対流し活発な火成活動や地震を誘発している。岩石鉱物の流動は結晶内部の欠陥(空孔や転位など)のミクロな運動により引き起こされ、そのような流動特性は実験室で高温高応力条件を再現し調べることができる。私たちは固体圧変形試験機を用い、沈み込み帯深部条件での流動特性に関する研究に取り組んでいる。これまでのところ、低温高含水量条件でのオリビンの流動則についての実験を行っているが、今後は蛇紋石や雲母鉱物などのphyllosilicate(層状ケイ酸塩)についても注目していく予定である。

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